2012/01/26

夜の緋牡丹(1950新東宝)

日雇い業者の貧乏復員兵・隆介は作家志望のインテリ。ひょんなことから知り合った楽観的な半娼芸者タイ子と深い仲になるが、ペースを乱されてスランプに陥ってしまう。同じ作家志望の美樹もまた、男の求愛を受け入れては失望する日々を送っていた。ふたりは公募の新人賞入選によって出会うのだが…。

♥アイドルフェイスのダンス芸者・島崎雪子と、知的でロマンチストな作家のたまご月丘夢路。そんなふたりの間で右往左往するインテリ復員兵・伊豆肇…普通に面白そうなあらすじ!なのに、なぜか千葉泰樹、変なつなぎと音楽、唐突な展開で、わけわからんトンデモ映画に昇華させてしまった。これは制作・脚本・原作を兼ねた八田尚之の影響かな、それとも水面下で色々な圧力や勢力争いが起きていたの?
タイトルクレジットの夢路が一番最後なのは、単純に順番争いかと思ったけれど、ただ単に途中まで存在しないパートだったからじゃ?と勘繰りたくなるほど、伊豆=雪子のパートと月丘夢路をめぐる男たちのパートに脈絡がない。せめて伊豆パートと夢路パートの合体(出会い)が映画開始から30分くらいだったなら、もっとすんなり入り込めたのに!ああいう「昨日までは知らない他人同士だったのに、こんなに近くなるなんてなんだか不思議ですね」という伊豆=夢路の関係は、伊豆=雪子の恋物語よりも現実味がある感じなので、尚更その後の気持ちの変遷を丁寧に描いてほしかった(北沢彪と千明みゆきのシーンや、田崎潤の役どころは全面カットでいいんじゃないだろうか)。

映画冒頭から島崎雪子がビキニで踊るシーンがあるのだけれど、ビヨンセやジョセフィン・ベイカー的ワイルドダンスで不自然さむんむんだった。アイドル顔で凹凸少ない体系の雪子はフラッパーよりも清楚なお嬢さん役の方が合ってる感じ、踊らせるなら踊らせるで、「目下恋愛中」の八千草薫みたいに可愛らしく撮ってあげればよかったのに!
とはいえ伊豆の下手くそな鼻歌料理場面や、彼の叔父であるなまくら和尚・高堂国典などいい味出してて、駄作と打ち捨てるには惜しい面白さが随所にあった。煙草の撮り方もユニークで、勝手に人の家に上がり込んでスパスパ吸う島崎に対して、伊豆がさりげなく灰皿を出したりする場面にはじまり、経済的に裕福になるにつれ伊豆がヘビースモーカーになっていったり、お嬢様育ちの夢路がキャバレー勤務後から煙草デビューしたりするの。当時煙草は一般のお嬢さんのたしなむものではなかったのかな。

上:「火の鳥」(1956)より。デビューからこの時期の月丘夢路は激綺麗。
下:ジョセフィン・ベイカー並みに腰を振る島崎雪子


でもやっぱり可愛い!だって雪子だから。

おまけ:本家・ジョセフィン・ベイカー。だいぶ強烈。


湖畔の蔦にブランコに乗るように、手を掛けて笑い転げる島崎雪子は、まんま「ピクニック」!あの幾度となく現れる美しいイメージとしての「タイ子」役を、島崎雪子でなく轟”ドスコイ”夕起子が演じていたかもしれないと思うと、それだけで戦慄が走るので、島崎雪子-月丘夢路という美しい二女優をヒロインに迎えているだけでも、この映画に満足しなくっちゃね。

ジャン・ルノワール監督作「ピクニック」(1936)。ちなみに島崎雪子はギンガム・ビキニでブランコやってました!
これ。

かわいい!

1950(製作=銀座ぷろだくしょん)(監)千葉泰樹(原)(脚)八田尚之(撮)鈴木博(美)下河原友雄(音)早坂文雄(出)伊豆肇、島崎雪子、田崎潤、月丘夢路、龍崎一郎、山本禮三郎、北澤彪、勝見庸太郎、高堂國典

2012/01/11

君と別れて(1933松竹)


場末の芸者菊江の息子・義雄は、菊江が芸者をしている事を快く思わず、不良の仲間入りをしてしまう。義雄と心を通わす菊江の妹分芸者・照菊は、どうにかして前の義雄に戻ってほしいと願うが…。

♥現在神保町シアターで開催されている「巨匠たちのサイレント映画時代」にお邪魔してきました。
大ヒットを記録したという成瀬巳喜男監督作「君と別れて」、期待にたがわぬ傑作だった!
不良になった主人公たちの元に警官と思しき人物が近づいてくる描写や、義雄の靴下に開いた穴を巡るやり取りなどサイレント映画らしい遊び的なショットや切り返しが多くてうっとり。
クライマックス、カルメンが響く中で客に別れ話を切り出された菊江が、刃物を向けて揉み合いになるシーンは、階下でダンサーに見惚れる客たちと上で繰り広げられる乱闘を交互に見せて、手に汗握ってしまうほどの迫力。そしてくりっとした眼のヒロイン照菊が、キモい客に口説かれているシーンは、腕を掴まれているだけなのにとてもハラハラしてしまうの。
これらがひやひやしてしまうのは素敵な伴奏によるところも大きいけれど、たぶんそれ以上に、役者の表情を斜めから捉える監督の視線が大きいと思う。特に度々アップになる水久保澄子演じる照菊の魅力といったら!
水久保澄子は桂木洋子と野添ひとみを足して割った感じの風貌で、現代にも通じる洋風美少女。そんな彼女が悲しげに「このまま何処かに消えてしまいたい」と呟くとき、画面はきらきらと光りはじめて、事あるごとにフラッシュバックする田舎の海が、とても美しいものとして胸に迫ってくる。

義雄さんが一番好きだったこと忘れないでね

義雄は母親が自分を育てるために水商売をやっているという罪悪感と負い目から不良になるだけのガキなので、背負っているものが違う照ちゃんとは結ばれるはずもなく、そこがまたせつない。

これで死ねたら幸せだったのに
でもわたし生きるわ どんなにみじめな思いをしても絶対に生き抜くわ

まっすぐな目で前を見据える照菊=澄子の姿に、この後現実世界で自殺未遂騒動やフィリピン出航を遂げる予感はみじんも感じられない。様々な憶測の流れる水久保澄子の後世だけれど、照ちゃんのようにきらきらした目で生活していたらいいなと思った。

上:菊江&照菊の「ヤルセナキオ」的一場面。菊江が白髪を一本ずつ抜いていくシーンなんて、直視できない。

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ちなみに。劇中でもやっぱり水久保澄子は明治製菓のチョコレートを取り出して主人公に渡していました。さすがキャンペーンガール!

わたしが明治製菓のキャンペーンガールとして真っ先に思い出すのは加賀まりこ。
可愛い♥


監督:成瀬巳喜男 撮影: 猪飼助太郎
出演:吉川満子、磯野秋雄、水久保澄子、河村黎吉
1933(昭和8年) 72min

2012/01/03

New year

あけましたね♥さくらは2012年になってから毎日踊りあかしています。
今はバタバタしていておぼつかないけれど、余裕ができたら2011年の映画まとめ書きたいな。素敵なお正月を♥